看護師雇用状況の変化と就業実態

外国人看護師を雇用すえう日本の看護師不足

わが国における看護職員の需給に関する推計は、「第一次看護職員需給見通し」(1974~ 1978年)に始まり「第七次看護職員需給見通し」(2011~2015年;以下、第七次需給見通し)に至るまで、厚生労働省が計7回行っている。

就業実態と動向

第七次需給見通しでの看護職員の2015年の需給は、需要が2011年の140万人から150万人に、供給が2011年の135万人から149万人に増加すると推計されている。これらの見通しからは、わが国では需要。供給ともに年を追うごとに増加の一途をたどってきたことがわかる。

しかも、推計時には予測のできなかった高齢化の進展、医療技術の高度化、看護業務の複雑化・多様化などから、看護職の需要は実際に増え続けている。

その最たる例が、第六次需給見通しが発表されてまもなくの2006年度診療報酬改定において、今までで最も手厚い看護職員配置となる7対1入院基本料が提案され、看護職員の需要が一気に高まったことである。

では、供給はどうなっているのか。「看護師等の人材確保の促進に関する法律」(1992年)の制定や、第4次医療法改正時の医療法施行規則の見直し(2000年)、看護系大学の増加、医療職における紹介予定派遣制度の導入などを経て、2010年時点での看護職の就業数は約147万人に達している。

看護師学校養成所の推移は、2010年の1、031校から2011年の1、023校に減少したものの、1学年定員の総数は5万9、002人から5万9、517人に微増となっている。准看護師課程については減少傾向がうかがえる。看護系大学は一貫して増加傾向にあり、1996年には46校であったものが2011年では200校にまで増えている。

全体的には、卒業者総数の8割近くが病院に勤務している実態がある。

しかし、少子社会において、いまや看護職は新規養成に頼るだけでは供給が追いつかない。既卒者を含む優秀な人材の確保や、現在病院で働いている看護師の定着促進、潜在看護師の復職支援に重点を置いた施策が必要とされている。

離職と看護職

看護職者の1年間の1病院あたりの平均離職率は、2007年度は12.6%であったが、2010年度には11.2%と、微減傾向にある。大都市圏での離職率が高いことは従来と同様である。離職で注目しなければならないのは、「就業して1年以内に離職する者」「結婚・出産・育児などのライフイベントが生じ離職する者」、さらに「潜在看護師」「定年退職者」の存在である。

就業して1年以内に離職する者

新規採用者の平均離職率は8.6%(2009年度)で、2004年度の9.3%からは近年微減傾向にある。2005年の調査では、仕事を辞めたくなった理由の上位に「配属部署の専門的な知識・技術が不足している」76.9%、「医療事故を起こさないか不安である」69.4%、「基本的な看護技術が身についていない」67.1%、「ヒヤリ・ハット(インシデント)レポートを書いた」58.8%などの項目が挙がっている。

彼らの定着を困難にしている要因を田口2)は、卒業時の能力と求められる能力のギャップや若者の精神的な未熟さ。弱さにあるとしながら、その背景には医療レベルの向上によって看護職員により高い能力が求められるようになっており、 これが大きな原因ではなかろうかと分析している。

このようなギャップから生じるリアリテイショックの影響により、離職に追い込まれる状況を調査した報告は多い。

新人看護師の臨床実践能力に関する検討は、基礎教育と臨床における新人教育の両方の視点でなされなければならない。こうした背景をふまえ2004年3月10日に厚生労働省は、「新人看護職員の臨床実践能力の向上に関する検討会報告書」において、「新人看護職員研修到達目標及び新人看護職員研修指導指針」を示し、同月26日には日本看護系大学協議会が基礎教育の立場から「看護の実践能力育成の充実に向けた大学卒業時の到達目標」を示した。

さらに、2009年度から指定規則が改定され、看護基礎教育に「地域看護学」と「看護の統合と実践」という領域が加わった。

結婚、出産、育児などのライフイベントが生じ離職する者

看護職は女性が圧倒的に多い。そのため、20代から30代にかけてキャリアを確立させていく時期に離職に至るものが多い。実際、看護職員就業率の調査結果によると、「25~ 29歳」がM字型の1つめの山(就業率75.5%)になり、「30~ 34歳」で61.2%のポイントまで下がり、「40~ 44歳」に69.9%と2つめの山を迎え以降は低下する「M字型カーブ」をたどる。

これは、全産業の女子の就業率とほぼ同様のM字カープを描いているという。

潜在看護師55万人の存在

離職する者がすべて潜在看護師になるわけではないが、2007年度に行った日本看護協会専門職支援中央ナースセンター事業部の調査結果によると、わが国の潜在看護師の数は推計55万に及ぶ。かれらの離職理由として上位の「妊娠、出産」「結婚」に次いで「勤務時間が長い、超過勤務が多い」が挙がっており、 ライフイベントのみならず労働条件の厳しさが離職理由となっていることがわかる。

これに比し、看護管理者の把握している離職理由の上位3項目は「結婚」「子育て」「妊娠・出産」であった。つまり、潜在看護師の離職理由にはライフイベントと同様に大きな比重で労働条件などが挙げられているが、看護管理者はライフイベントによる自己都合と認識しており、これらの認識の差が有効な離職防止策を打ち出せない要因となっている。

定年退職を迎える看護師のセカンドキヤリア平成16年保健・衛生行政業務報告によると、55歳以上で就業している看護師は約11万人(うち6万2、000人は准看護師)、保健師約3、300人、助産師約2、700人で、合わせると約11万6、000人がまもなく定年退職を迎え、潜在的な看護マンパワーになると見込まれている。

先の日本看護協会の調査結果によると、調査対象者の42.6%が退職後も「看護師として働きたい」と回答しており、就業意欲の高さを示した。さらにそのなかで「今、働いている職場とは異なる職場で働きたい」と希望する者が62.7%もあり、ケアハウスやグループホーム、有料老人ホームなどが選択されていることは、セカンドキャリアの活用を考えて行くうえで有用な資料となっている。

病院における看護師の確保定着対策

先述したように、新卒看護師の離職要因には、知識。技術の不足や医療事故への不安などが挙がっており、その対策として、基礎教育の改革と併せ臨床における新卒看護師教育研修制度の充実が求められている。

さらに、20代から30代にかけてキャリアを確立させていく時期に、離職する者を含め離職を考えている者に対しては、離職防止・就業促進のための看護師の能力開発や、多様な働き方、就業形態の多様化、ファミリー・フレンドリー施策によるワークライフバランス(仕事と生活の調和)の推進が求められている。

外国人看護師の受け入れについては、2006年9月に「経済上の連携に関する日本国とフィリピン共和国との間の協定」が結ばれ、2年間で400人のフィリピン看護師の受け入れを合意した。

また、インドネシア共和国においても同様の協定が結ばれ、すでに2008年7月にインドネシアの看護師104人が日本に受け入れられている。日本看護協会は、「外国人看護師の受け入れは日本の看護師不足を解消するためではなく、あくまでも2国間の貿易交渉の問題である」との見解を示しているが、将来的に看護マンパワー確保の一環として考えられる可能性も視野に入れておきたい。

流動化するヘルスケアの人材市場

訪問看護の現状と課題

2006年度の医療保険・介護保険の同時改定により、在宅療養支援診療所との連携による訪問看護、療養通所介護の創設、契約による在宅施設への訪問看護など、地域で看護師が活躍できる場が拡大され、大きな期待が寄せられている。しかし反面、全国的には訪問看護ステーションの数は微増にとどまり、休止状態であったり廃止となった施設がある。

2007年4月現在の訪問看護ステーションの開設数は6、163カ所、そのうち活動している事業所は5、726カ所である。この原因には経営困難、看護師不足がある。

マンパワーの定着・獲得の障害になっているものは、給与面の問題、人員不足のなかでの24時間対応、利用者や従事者の安全確保の問題だという。ちなみに2005年の訪問看護ステーションの職種別常勤換算従事者を見ると、看護師が1万9、763人、准看護師2、697人、理学療法± 1、844人、作業療法±906人、その他の職員1、292人となっている7。

また、訪問看護は医療保険制度と介護保険制度の双方にかかわるサービスであるため、経営の煩雑さも課題である。

介護の抱える問題

介護保険制度が誕生して9年が経ち、2009年には3度目の介護報酬改定が行われた。しかし、介護をめぐる状況も決して楽観的ではなく、次のような問題がある。

財政的な問題

介護保険の総費用は、2000年度の3兆6、000億円(実績)から2008年度の7兆4、000億円(予算)へと倍増しているものの、高齢化の進展を考慮すると楽観的な見通しとはいえない。介護保険料の大幅な増額も難しいと思われる。財源の確保、捻出が課題といえよう。

人手不足の問題

財政的な問題と同時にここ数年深刻化しているのが、人手不足の問題である。介護施設の経営者からは「募集への反応がない」との声が上がり、介護福祉系の大学や専門学校では定員割れを起こし、定員減をしているところも多い。

厚生労働省の調査では、介護分野で働く人材は約117万人であるが、需要に供給が追いつかず、有効求人倍率は全産業1.02に対し介護関連は1.74
である(いずれも2006年現在)。

この背景には、仕事の内容に対して低い処遇がある。30~ 34歳の福祉施設介護員の男性の平均年収は336万円で、同年齢のサービス業で働く男性の平均年収468万円に比べると大きな差がついている。

2014年には140~ 160万人の介護人材が必要ともいわれるなか、人材確保は緊急の課題である。政府はより多くの人材を呼び込むために、前述の看護師と同様、インドネシアから介護士の受け入れも行った。しかし、その数は当初計画の半分にも満たないという。

看護師自律の時代

看護系大学の開設ラッシュはどこまで続く?

日本の看護系大学の歴史は浅く、60年にも及ばない。日本最初の看護系大学は、1952年に開設された県立の高知女子大学家政学部看護学科である。

そしてその翌年、最初の看護系国立大学である東京大学医学部衛生看護学科(当時:現・健康科学・看護学科)が開設された。3校目の聖路加看護大学が登場するのはそれから12年経過した1964年である。

ここは看護系私立大学であると同時に看護系単科大学であるという点で、日本最初の大学であった。

その後、約10年かけて10校ほどの看護系大学が開設され、多少の増減はあるものの、1990年までの約30年間は長い10校時代が続くことになる。1992年以降は、看護系の大学や学科を新設する動きが止まらない。

看護を学べる大学は1990年の11校から確実に増え続け、2011年には200校にまで増加した。就職に直結する看護師の衰えない人気を社会の高学歴志向が加速させている。全国の看護系大学の入学定員は1990年から2007年にかけて15倍以上となった。11年の競争率は5.1倍と高い水準を示している。

看護師全体への有効求人倍率も2.8倍(2009年1月現在:ナースセンター調べ)と高く、引く手あまたの売り手市場となっている。また、かつて看護師になるには専門学校や短大に入学するのが主流だったが、高学歴志向を背景に、看護系の学校の専門学校から短大、4大へのランクアップはしばらく続くと考えられる。

この背景には、医療の高度化や網羅する領域の広さなどから、基礎教育で求められる知識・技術が高度化・増加してきたこと、それを受けて他の医療職の大学化や高学歴化が進んだこと、「保健師助産師看護師法」の改正(2010年4月施行)により看護師教育の基本が4年制教育に置かれたことなどの影響がある。

これからの時代、看護師が専門職業人として社会的に認められるためには、他の専門職並みの教育が必要となってくるであろう。また同時に、臨床現場ではさまざまな教育背景を持った看護師の現任教育や処遇に対応しなければならなくなり、後述するキャリア開発プログラムのあり方にも多様性を持たせる必要があるだろう。

スペシヤリストが行く!

専門看護師、認定看護師の現状

専門看護師や認定看護師の臨床での活用については、地域・病院によって病院管理者の考え方がかなり異なる。また、その数は2012年2月現在、専門看護師は795人、認定看護師8、994人、認定看護管理者1.307人であり、関東圏や関西圏に活躍するものが多い。

認知度は、患者や地域社会においてはまだ低いが、看護職間では高く、臨床へのさらなる導入が希望されているようである。

  • 精神看護
  • がん看護
  • 地域看護
  • 母性看護
  • 小児看護
  • 老人看護
  • 家族支援
  • 慢性疾患看護
  • 感染症看護
  • 重症患者看護

分野別の専門看護師数と認定看護師数とを示したものであるが、皮膚・排泄ケア、感染管理、緩和ケアなど、近年の診療報酬改定で加算がついた分野で数が多い傾向が見てとれる。この分野の専門看護師や認定看護師については社会的認知度が高く、かれらの存在が入院期間を短縮させ、合併症を予防するとの報告もあり、認定看護師の資格取得研修では施設派遣が8~ 9割となっている。

また。修了生の就職先は500床以上の大規模病院が多いことも特徴である。これは、大病院にかれらの需要が高く、施設で派遣してでも活用しょうという管理者の意図が反映されているといえる。

かれらの臨床における活動は、医療チームを編成したり、組織横断的に活躍していたりするモデル報告が多く、それぞれの領域における院内教育の企画。実践などの役割モデル、相談、研究などの実践活動報告も多い。

ただし、専門看護師や認定看護師を対象に、かれらの活用効果を示した報告や研究はほとんどないのが現状である。

処遇面では確立されておらず、処遇制度を取り入れている組織と取り入れていない組織がある。また、専門看護師と認定看護師の職場での役割が混同している、専門看護師と認定看護師間で役割が重複しているといった問題点もしばしば指摘されている。

専門看護師・認定看護師の絶対数はまだ少ない。今後の増加が望まれるが、これらスペシャリストをめぐっては先述したような状況にあり、これらの改善なしに育成のみを進めることは問題であろう。

処遇確立、役割獲得、専門性発揮のために

まず、 日本の多くの病院では、専門能力や実践力の高さで看護職を地位や賃金において処遇するすべを持っていない。さらに、他職種に比べ看護管理者にスペシャリストを活用することへの理解が低い場合も多い。社会的認知度を高め、経験豊かな人材を輩出し、管理職の意識改革をすることが必要である。

専門看護師と認定看護師の役割の分担や共同が明確化されること、さらに、認定制度は一定の水準以上の卓越した能力を保証するもので、その成果が処遇に反映されるためには、スペシャリストに自由裁量権を与え、かれらが成果を示すことが求められる。

獲得した知識・技術や資格の客観的評価

人材の活用、処遇のためのシステムづくりが管理者側に求められる。また、教育内容を充実させる点からは、教育機関と臨床が日常的に研究および学習会を通して連携を深め、相互のレベルアップを高めていく必要がある。

海外の状況はどうであろうか。

欧米等先進諸国における麻酔看護師を例に挙げると、アメリカの麻酔認定看護師の役割は、実施面で麻酔医のそれと明確に区別されている。また、賃金処遇はRN(Rcgistcrcd Nurse)に比べ約3倍と高額であるなど、役割と処遇が明確である。

まとめ

こうした点で、日本のスペシャリストはあいまいな部分が多いことがわかる。日本においても、医療システムや時代のニーズに合ったスペシャリストの役割の獲得と、専門性を有効に発揮できるシステムづくりが求められる。

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