離職看護師の看護の心を取り戻す復職支援プログラムの本気度

復職をしたばかりの看護師

看護師が辞めていく場合は、勤務している職場環境に問題がみられることが多い。もちろん、医療現場に限らずどのような職種でも職場に問題がなければ、よほどの理由がない限り辞めていく人は少ないはずだ。だが、看護師は国家資格であるうえに職業としての社会性が高く、特別なスキルを必要とされるため、一般的な職業とは単純に比較できないだろう。

そのためか、看護師の場合は一度離職してしまうとなかなか復職しようとは思わない。あるいは、復職の意欲があっても二の足を踏むことが多いようだ。また、退職から時間が経つほど復職する自信が失われていき、復職に対するハードルが高くなる。また、受け入れる側の医療機関としても、一度離職しブランクのある看護師をいきなり現場に投入するのはリスクがある。雇用する側とされる側、双方ともに決めきれずしり込みしがちなのが看護師の復職だ。

しかし、深刻化する少子高齢社会の医療現場は常に看護師不足に悩まされている。国や行政による離職中の看護師たちへの復職支援が急務となっているのだ。

この記事では、看護師不足に陥った原因と、国と地方自治体、病院の復職支援業務についての解決策を紹介している。朗報までとは言えないが、潜在看護師への復職の動機が生まれてくれば幸いだ。

1.辞めていった看護師たち

ナースセンターの潜在看護職員調査によれば、離職した看護師が多く住むのは政令指定都市や県庁所在地などの都市部で、年齢層は30代が全体の半数を占めるという。ほぼ99%が女性で、79%が既婚、被扶養者は59%程度、70%に子供ありとなっている。おそらく多くの看護師が結婚、出産を機に辞めたと思われるので、復職を考えるときは家事や育児との両立、ブランクに対して不安を抱いているに違いない。

1-1経験とブランク

離職中の看護師は約3割が看護師経験5~10年で、2割弱が5年未満だ。また、最後に退職してからの離職期間は54%が5年未満、転職回数も0回が最も多く23%、次いで1回の17%と約半数を転職経験の少ない層が占めている。

最後に働いた職場から離職した期間

最後に働いた職場から離職した期間

 

転職回数

転職回数

在職中の職位は当然一般のスタッフが一番多く76%を占める。これらのことから、離職中の看護師の多くは十分な経験を積む前に退職をした人たちが多いと推測される。まだ若いうちに退職したために、結婚・出産を経て4~5年後に復職したいと思いつつも、仕事に対する自信がないことも看護師の復職を妨げる一因となっている。

1-2復職のきっかけは

また、現在看護職に就いていない理由としては44%が子育てのため、22%が家事との両立がむずかしいと答えているが、約22%が自身の適性や能力に対する不安を挙げている。しかし、離職中の潜在看護師のうち77.6%がもう一度看護師として働きたい、と復職への意欲を見せている。にもかかわらず現在75万人ともいわれる潜在看護師は年々増え続けている。

しかし、潜在看護師が復職しようと思うきっかけは、経済的な理由よりも「社会参加」を理由として挙げる割合のほうが高い。アンケートの3位には「看護職としてのやりがいを再認識したから」という理由が挙げられている。看護師は離職しても看護師としての心を忘れてはいないのである。

再就職したいと思ったきっかけ

再就職したいと思ったきっかけ

1-3復職への一歩を踏み出すために

このように、復職への意欲は旺盛な潜在看護師だが、実際に再就職に向けて活動をしているかというと、そうでもないらしい。すでに就職先が決まっていると答えたのは8%で、すぐにでも働きたいと回答したのは26.5%にとどまった。残りは1年以内に働きたい、とか就職時期は未定、とする回答者が多かった。しかし、離職期間が長引けば長引くほど復職の意欲は薄れ、実際に復職する割合も低くなる。

潜在看護師が看護協会に登録している割合は20%ほどで、ナースセンターには68%が登録しているものの、就業相談に訪れたのは26%と少ない。さらに、再就職向けの各種イベントや研修会への参加者は軒並み数パーセントと極めて少ない。復職への第一歩として各種の研修会やセミナーを一度訪れてみることで、再就職に向けた具体的な道筋が見えてくると思うのだが、イベントの認知度が低いのか面倒なのか、なかなか具体的な行動にまでは至っていない。

2.看護師への復職支援事業

一般の職業では20代後半から30台にかけて離職し、子育てが一段落する40代に復職、というケースが多く年代別就業率はM字型の曲線を描く。しかし、看護師の場合は一度離職すると、その過酷な職場環境のためか戻ってきたくとも復職をためらうことが多い。さらに、新卒で入職した新人看護師の離職率の高さが看護師不足に拍車をかけている。

新卒の新人看護師の離職率は統計から推移すると益々増えそうな気配も感じられる。看護師といっても一般社会人と肩書きは同じであるので自己管理能力の意識して高めなければならない。この詳細は 新人社会人必見!看護師感情労働から学べる自己管理方法の簡単基礎知識で紹介している。

2-1誰のための看護師なのか

診療報酬の改定により看護師の人数と入院日数のルールが厳格化されたため、病状の軽い患者はどんどん退院させられる。必然的に残るのは病状の重い患者ばかりで、看護師の責任と仕事量はいやがうえにも増すばかりだ。新人看護師だからと大目に見てくれるはずもなく、過酷な仕事環境についていけず新人は一人前になるどころか1年以内にその7~8%が病院を辞めていく。

こうなると負担が大きくなるのが経験3~5年の中堅看護師だ。新人の定着率が悪い分業務はどんどん増えていく。さらに日進月歩で進化する医療システムは経営からカルテ、診断、投薬のオーダリングから会計まで、病院の上位から末端まですべてがICTによって関連付けられ、一括したシステムとして稼働している。医用システムが導入され、バージョンアップされるたびに看護師は新しい操作方法と格闘しなければならない。

際限なく増え続ける仕事と増えないスタッフ数。やがて中堅看護師たちも追い詰められ、ついには燃え尽きて退職に追い込まれていく。この苛烈な看護業務に関しては、中途採用看護師が復職後に気持ちよく働けるために知るべき職場の準備、でも解説しているので是非参考にして欲しい。

激務にあえぐ中堅看護師は言う。「とにかく忙しくて手が回らない。電子入力に手を取られているひまもなくコール、またコール。病棟内を走り回っているだけで手いっぱい。必然的にコールを押せない重症の患者さんや寝たきりの患者さんが後回しになってしまう。いったい誰のためのナースなのか…」

2-2看護師の復職支援

毎年、約5万人が新卒で入職してくるが、一方で常勤看護師の離職率は11%前後の高水準で推移している。毎年2万人近くが辞めていき、その1割以上を1年以内の新人看護師が占めている。しかも、辞めていく看護師たちの多くが職場には戻ってこないのだ。こうして離職した潜在看護師は70~75万人にも上ると推定されている。

病床規模別看護職員離職率

病床規模別看護職員離職率

出典:日本看護協会ニュースリリース

看護師の離職防止に対する取り組みが声高に叫ばれてはいるものの、いまだ有効な手立てが講じられていないのが現状だ。一方で看護師の復職支援については、国や自治体、病院などによってセミナーや研修が提供されている。復職を目指す潜在看護師たちにとって利用価値は高いと思われるが、もっと認知度を高めていく必要があるのではないだろうか。

3.看護師の復職支援プログラムとは

離職中の潜在看護師に復職を促すための支援プログラムは、自治体や病院などによってさまざまなかたちで提供されている。大きくわけて、自治体が行う研修会や復職相談、病院など医療機関が行う復職支援研修などがある。大半は参加費が無料で復職への動機づけを行うためのプレゼン形式のセミナーから、7日間におよぶ病院での実習までさまざまだ。

潜在看護師がどのようなステージで離職したか、現在の生活の状況や子育て・家事との両立も考えて、受講する場所や内容を選ぶことが可能だ。各都道府県の福祉保健局やナースセンターなどに問い合わせるか、ホームページなど調べてみるといいだろう。

3-1自治体の復職支援

一例として、東京都福祉保健局が実施する復職支援プログラムを見てみよう。東京都は全国でも看護師の離職率が極めて高く、常勤で14.6%、新卒で9.6%となっている。東京など大都市圏では大学病院や大病院が多く、さながら看護師の争奪戦の様相を呈していることが離職率の高さにつながっているのではないだろうか。

都道府県別看護職員離職率

都道府県別看護職員離職率

出典:日本看護協会ニュースリリース

そんな東京では都の福祉保健局が東京都看護協会に委託する形で復職支援研修を行っている。実際に研修が行われるのは新宿区の東京都看護協会会館に併設するナースプラザだ。

東京都看護協会会館に併設するナースプラザ

ナースプラザでは新人研修、中堅看護職ブラッシュアップ研修などとともに復職支援研修が行われている。復職支援研修はナースプラザで行われる研修のほか、都内にある31の連携病院でほぼ実戦に即した実習、演習が行われている。参加費は無料だが、看護協会への入会が前提となっているので15,000円~20,000円の会費が必要となる。

支援プログラムの内容は復職意欲を高める動機づけセミナー(1日)から、5~7日間かけて病院で行われる基礎実習から本格的な病棟での実践研修までが用意されている。そのほか、ナースプラザ主催の研修も開催されており、採血や輸液の技術研修や急変時対応の措置、挿管やAEDの操作に関する研修なども行われている。

出典:東京都看護協会

標準的なプログラム

プログラムの種類 期間 主な内容
1日コース
(看護の魅力再発見講座)
1日 病院の実績に応じた「医療看護の動向率」、オリエンテーション、病院見学等を実施。
いずれも就業したい方にお勧めです。
5日コース
(復職に向けた病院実習基礎編)
5日 1日コースの内容に加え、模型や実際の医療機器を使用した手技演習を中心とした研修及び病棟実習を実施。再就業にめけて少しづつ準備したい方にお勧めです。
7日コース
(復職に向けた病院実習実習編)
7日 1日コースの内容に加え、より実践的な研修とするため、病棟実習を実施。(助産師向けの研修もあります。)すぐにでも再就業したい方にお勧めです。
訪問介護ステーション、その他の施設での研修 2~5日 病院における研修(1日コース、5日コース、7日コースのいずれかを終了後、訪問k死後ステーションや診療所、福祉施設などでの研修を希望する方のためのプログラムです。
ライフスタイルに合わせた職場選択を可能にします。

東京都福祉保健局より抜粋

3-2病院による看護師復職支援プログラム

多くの自治体では看護職の復職支援を行う医療機関を公募し、助成金の支給による復職の促進事業を行っている。この制度を利用した病院独自の看護師復職支援プログラムもある。

たとえば埼玉県の春日部中央総合病院では、平成27年度に3日間の研修を8回開催する予定としている。内容は1日目が医療の動向と病院の概要、標準予防策、注射練習と看護体験、2~3日目が同じく看護体験と注射練習で、いずれも朝9時から12時半までの午前中のみの研修となっている。
春日部中央総合病院 看護部ウェブサイト
http://ims-site.jp/kasukabe/kango/fukushoku/index.html

また、横浜市戸塚区の戸塚共立第1病院看護部では不定期で独自の看護師復職支援セミナープログラムを実施している。こちらは個別の申し込みで、1日セミナーと4日間実習の2タイプが用意されている。1日セミナーは4日間実習の初日と同じ内容で、午前は「最近の医療・看護の動向」「やさしい薬の知識」、午後は「医療安全」「感染管理」の講義が行われる。

4日間実習の2~3日目は採血、輸液・静注、吸引や体位変換、移乗などの演習を行う。4日目は病棟に場所を移し、現役看護師とマンツーマンで看護の援助を行う。病棟ではリネンの交換、バイタル測定、体位変換や移乗、食事・排泄の補助、吸引など通常の看護業務補助を行う。4日間の実習が終わると再就職支援の相談を挟んで、希望者はさらに透析クリニックコース、訪問看護ステーションコースの実習を受けることができる。

戸塚共立第1病院 看護部ウェブサイト
http://www.tk1-hospital.com/nursing_department06/

まとめ

看護師が心ならずも看護の道を断念し、復職してこない現実がある。それは決して看護師の責任ではない。国や自治体、病院が連携して、まず最初に取り組まなければならないのは看護師が辞めない職場環境をつくることだろう。しかし、医療機関は山ほど問題を抱えており、忙しすぎる現場、過酷な交代勤務と残業における賃金の不払い問題、家事や育児との両立などなかなか解消のめどが見えてこない。

一方で離職して復職しない潜在看護師は70万人を超えると推定されている。だが、離職していても彼女たちは看護師としての使命を捨てておらず、その多くが看護師に復職したいと願っている。そんな離職中の看護師がスムーズに復職できるよう、さらに支援プログラムを充実させる必要がある。しかし、支援プログラムとはいえ一度は辞めた病棟での実習にひとりで向き合うにはかなりの勇気がいるだろう。

復職を目指す看護師たちには公的な支援に加え、家族や友人の励ましがなにより必要なのではないだろうか。

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