看護師の離職の原因は人手不足による過重労働

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看護師不足状態での対策とは?

日本国内で就業している看護職員の数は約157万人(2013年、厚生労働省調べ)となっており、2004年末の約130万人に比べて20%も増えている。

看護師だけに限れば2004年の約8万人から110万人と、40%近い増員となっている。また、厚生労働省の第7次看護職員需給見通しにおける供給見通しも平成24年時で152万人弱の予想に対して、実際の就業者は154万人弱と上回っている。

それにも関わらず、看護師不足は厳然たる事実としてあるのだ。

看護師の需要見通し
出典:厚生労働省ホームページより

看護職員の離職率は毎年11%前後で推移しており、厚生労働省では年間約16万人と推定している。これに対し、入職者は新卒5万人、復職14万人の計19万人となり、離職者を3万人上回るとしている。このペースで進めば、平成27年には需給バランスが限りなく100%に近付くと見通していた。

しかし、現実は急速に進む高齢者の増加に看護職員の供給は追いついていない。供給される看護師の数が増えても、看護師の離職率が11%で横ばいということは、実際の離職者数は年々増えているということになる。

新卒の入職者は現在5万人ほどだが、18歳以下年齢の人口が年々減少している現状では遠からず新卒入職者の数も減少に転じるだろう。社会の高齢化はハイペースで進んでおり、後期高齢者は今後10年で2倍になると予測されているのに、厚労省の見通しは甘すぎると言わざるを得ない。

一方で離職した潜在看護師は増え続け、現在では約70万人にも上る。離職者の10%が復職するだけで需給のバランスは改善されるはずだが、なぜ一度やめた看護師は看護職に戻らないのか。

離職した看護師たちが戻りたいと思うような現場を多くしていかなければ、看護師不足による医療の崩壊は免れない。事態は思うよりも深刻なのである。

1.看護師を辞めたい理由、辞める理由

厚生労働省の調べによれば看護師の退職理由は「出産・育児」22.1%、「その他」の19.7%をはさんで「結婚」17.7%、「他施設への興味」15.1%と続く。

看護師としての退職経験の理由

出典:厚生労働省ホームページより

しかし、日本看護協会による現在離職中の看護師に対するアンケートでは、トップこそ「妊娠・出産」だが、以下「自分の身体的な健康状態」、「その他」をはさんで「自分の精神的な健康状態」と続く。

看護師が直近の職場を辞職した理由

出典:日本看護協会 平成24年度都道府県ナースセンターによる看護職員の再就業実態調査

このかい離はいったい何なのだろう。どちらがより現実的なのか。

1-2 看護師が辞めたいと思う本当の理由

自治体病院には、周辺の民間病院から、次々と「施設待ち・リハビリ目的」と言って、いわゆる脳梗塞やがんなどで、寝たきりになった高齢者が回されてくるのです。「08年以降、内科病棟では患者さんの半数以上が、寝たきりの高齢者となり、まるで老人ホームのようだ」と疑問を持つナースもいます。地方の自治体病院、「看護師不足」その光と闇 より

日本医療労働組合連合会がまとめた「看護職員の労働実態調査」の報告書によれば、仕事を辞めたいと「いつも思う」看護師は全体の約20%、「ときどき思う」が約56%、全体の76%が看護師を辞めたいと思っている。看護師が4人いれば3人が看護の仕事を辞めたいと思っているのだ。そして「仕事を辞めたい」という割合は時間外労働が多いほど多くなる傾向にある。

仕事を辞めたいと思うこと
仕事を辞めたいと思うとき出典:日本医療労働組合連合会「看護職員の労働実態調査報告書」

そして、仕事を辞めたい理由については「人手不足で仕事がきつい」44%、「賃金が安い」34%、「思うように休みがとれない」33%、「夜勤がつらい」32%と続く。(回答は3つまで選択の複数回答結果)実際に退職のきっかっけとなるのは結婚や出産だが、実は多くの看護師が仕事の悩みから辞めたいと思っているのだ。

仕事を辞めたいと思う理由出典:日本医療労働組合連合会「看護職員の労働実態調査報告書」

1-3 やめたいけどやめられない

しかし、実際の離職率は11%前後で横ばいが続いている。離職者の実数は増えているが急増というほどでもない。仕事や自身の健康に不安や不満を抱えながらもやめられない理由とは何なのだろう。

日本医療労働組合連合会「看護職員の労働実態調査報告書」によれば、疲れが翌日に残ったり休日でも回復しない「慢性疲労」を訴える看護職は実に74%にも上る。加えて、仕事での強い不満、悩み、ストレスがあると回答しているのは67%で、自身の健康不安を訴えている看護職員は全体の7割弱を占めている。

健康不安やストレス、辞めたいと思う気持ちなどはいずれも、時間外労働時間や休日の少なさ、あるいは変則的な勤務時間に相関している。これらの原因はまぎれもない「人手不足による過重労働」なのである。職場には人手不足で辞めにくい雰囲気が醸成され、さらに経営者や上層部も簡単にはやめさせてくれない現実がある。

しかし、もっと重要なことは人口に対して多すぎる病院と病床数に対して少なすぎるスタッフ数だ。そして未だに医師中心でコメディカルへの権限移譲が進まず、チーム医療の体をなしていない医療体制。今や崩壊寸前の日本の医療は、最前線の現場でがんばる医師と看護師たちスタッフの誇りと責任感だけが支えている。
医療提供体制の各国比較出典:財務省「病院経営が抱える諸問題」

1-4 看護師の健康不安

看護師が仕事を辞めたいと思う理由は様々だが、突き詰めれば自身の健康問題であり、その原因は人手不足による過重労働だ。人手不足は看護師だけでなく、医師やほかのスタッフも同様で、医師の時間外労働は100時間超えがざらにみられるような状態だ。このような環境では医師も看護師も十分な医療を患者に提供することができない。多忙と、のしかかる重圧とに押しつぶされそうになりながら医療スタッフは日々の仕事に臨んでいるのだ。

医師も看護部長や師長などの上層部も精神的に不安定になり、看護師や看護助手に対して必要以上に厳しく接することが多くなる。さらにエスカレートしていじめに近い状況が生まれることも少なくない。こうなると患者の側にも不安や不満が生まれてくるのは当然で、モンスターペイシェントやクレイマー的な患者が現れる温床となる。

看護師の約13%がセクハラを、27%がパワハラを受けたことがあるといい、セクハラをするのはその多くが患者であり、パワハラは上司と医師で大半を占めている。過重労働に加えて日常的にハラスメント受け、メンタル障害で休職する看護師も多く、アンケートでは3割が職場にメンタル障害で休んだり治療を受けている職員がいると回答している。

メンタル障害で休んでいるか
出典:日本医療労働組合連合会「看護職員の労働実態調査報告書」

2 看護師を辞めたひとたち

看護職を辞していくひとたちの多くは結婚や出産などを直接のきっかけとしているが、本当の離職理由は職場環境によるものなので結婚や出産後の復職率は低い。離職理由について、看護師側と看護師を管理する側で大きなずれがあることが復職率を低迷させている原因と考えられる。

ナースセンターの潜在看護職員調査によれば、「勤務時間が長い・超過勤務が多い」を離職理由に挙げているのは、看護師側では22%だが、管理者側でそのように認識しているのはわずか0.1%だ。これでは離職した看護師たちが「戻りたい」と思わなくて当然と言えよう。

反面、現在離職中の看護師と、同じく管理者側に「なぜ就業していないのか」理由を尋ねてみると「勤務時間が長い・超過勤務が多い」と回答した看護師が13%なのに対し、管理者側は約17%がそのように回答している。これは、管理者側が「辞めたら戻ってこない」環境であることを認識しつつ、勤めているうちは「辞めないだろう」と高をくくっていることの現れではないだろうか。

2-2 看護師を辞めたあとは

看護師のバーンアウト症候群(燃え尽き症候群)のリスクは医師の約2倍といわれている。バーンアウト症候群とは極度の緊張とストレスに過労が加わると起こる心の病であり、情緒的消耗、脱人格化、個人的達成感の減退を示す。これはうつ病に通じる症状である。看護師は常に緊張にさらされると共に、仕事や職場環境から強いストレスを感じている。ここに過重労働による慢性疲労が加わりバーンアウト、メンタル不全へとつながることが多い。

mental-obstacle_2出典:日本医療労働組合連合会「看護職員の労働実態調査報告書」

また、患者やその家族からのクレームに対しても76%がストレスを感じるとしており、そのうちの26%は強いストレスを感じている。このような環境下で看護師たちの約6割が鎮痛剤や睡眠剤、安定剤などなんらかの薬を常用している。なかには抗うつ薬の使用も見られ、精神的な病を抱えながら患者の看護にあたっているケースも珍しくない。

また、半数以上の看護師が全身のだるさを訴えている。イライラや憂うつな気持ち、いつも眠いという回答もそれぞれ3割を超えている。これでは一度離職したら看護師に戻りたくても戻れないのではないだろうか。

mental-obstacle_3

2-3 それでもやっぱり看護の仕事が好き

看護師に看護の道を選んだ理由を聞くと多くの人が、自分や身内が病気などで治療を受けた際の看護師への感謝の言葉を口にする。また、母親が看護師だったという人も多い。いずれにしろ、看護師を志す人たちの多くは社会の役に立ちたい、人のためになにかしてあげたい、という思いを胸に秘めている。

また、現役の看護師として患者や家族からの感謝の言葉や、懸命の看護によって回復した患者が元気に社会復帰していく様にやりがいと達成感を覚えているものであろう。やはり看護師は看護の仕事が好きなのだ。ナースセンターの潜在看護職員調査によれば、離職中の看護職のうち77.6%が復職を望んでいる。
就業意向

出典:ナースセンター 潜在看護職員調査

3 復職の道

過酷な業務に携わり、少なからず心身を疲弊させた看護師たちが結婚や出産を機に辞めていく。おそらく、辞めていくときに2度とは戻るまいと心に決めたであろう彼女たちがそれでも看護の道に戻ろうと決めるとき、そこには何があるのか。

ナースセンターの潜在看護職員調査によれば「社会参加したい」53.2%、「将来のための経済的準備」47%、「看護師としてのやりがいを再認識したから」35.5%となっている。また、「その他」11.6%の中には「経済的な理由」のほかに「看護が好き・やりがいを感じる」という理由が多く見られたという。

こうした復職を望む看護師たちだが、以前のような職場に戻りたいと思わないのは当然だろう。離職中の潜在看護師たちはどのような復職の道を望んでいるのか。

3-2  看護師に戻るなら

ナースセンターの潜在看護職員調査によれば離職中の看護師が復職する職場として希望する第1位は入院設備のないクリニックで全体の約半数を占めている。無床のクリニックならば夜勤がなく祝祭日は休みのところが多い。しかし、クリニック経営は経営者たる医師の経営手腕によるところが大きく、開業する地域性や所得層、診療科目にも左右されやすい。

第2位は急性期の病院で35%を占めている。離職前の職場環境が比較的良好だったのか、あるいは「今度こそ」という思いでリベンジに挑む気持ちなのだろうか。3位は30.6%で「検診センター・労働衛生機関」となっている。以下、介護療養型医療施設、自治体の保健センター、企業の健康管理部門、訪問看護ステーションと続く。

再就業意向
出典:ナースセンター 潜在看護職員調査

3-3 看護師に戻るために

看護師に戻りたいと望む離職者のうち、未婚者は常勤の正規職員を望むのに対し、既婚者は嘱託を含む非常勤を希望する傾向が強い。雇用する側の病院や各種医療機関にも多様な勤務形態が要求される時代になってきた。雇用側には看護師が戻りたいと思える職場環境を整えるとともに、どのような看護師を希望するのか明確にすることも求められるだろう。

逆に言えば、看護師のほうにも漠然とした仕事観ではなく、雇用形態や勤務時間、仕事の内容や今後のスキルアップについて明確なビジョンが求められる時代に変わりつつある。嘱託やパート雇用についてもスーパーや工場勤務のように「時間がきたので帰ります」とはいかない。

短時間の正規職員、嘱託、夜勤専従、さらに訪問看護など勤務時間や内容について、事前によく調べ、雇用側と意思の疎通を図っておかないと「こんなはずではなかった」となりかねないので注意しておこう。

まとめ

これからの看護師に求められるものとは
これまでの日本の医療体制は医師にすべての権限が集中しているため、医療チームを組んでも医師にのみ業務が集中しがちであった。厚労省ではようやく看護師をはじめとするコメディカルへの権限移譲を進め始めたが、実態は人員とともに教育が不足している。移譲された権限を実施するスキルに欠けているのである。

チーム医療の機能不全出典:厚生労働省ホームページより

そこで脚光を浴びるのが専門看護師と認定看護師なのだが、専門大学卒の看護師の割合はまだまだ低い。医療機関での教育を充実させるとともに看護師自身にも積極的にスキルアップに取り組む姿勢が求められるだろう。

また、日本中が不況にあえいだリーマンショック後には多くの病院経営が破たんし、廃業に追い込まれるクリニックも多発した。ようやく日本経済は回復の兆しを見せ始めたが、まだまだ好況感を実感するに至ってはいない。

さらに、高齢化に伴う医療費の増大を受けて、診療報酬のマイナス改定はとどまるところを知らない。今、病院には経営手腕が求められ、そこに働く看護職員にもコスト感覚が求められるのは当然のことだろう。

今、看護師には、医師から移譲された職務権限を自ら判断し実践できるスキル、医師や他のコメディカルと治療方針について意見を交わすことのできるコミュニケーション能力、日々の業務を病院経営と結びつけて考えられるコスト感覚が求められている。変わりゆく看護業界の中で自立できる看護師だけが生き残れる時代なのかもしれない。

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